「言わぬが花」「和をもって尊しとなす」「石橋を叩いてわたる」いずれも、日本人独特の美徳や価値観を言い表したことわざや格言です。ビジネスシーンにおいても、団体行動を重視し、事前の準備や根回しをやって会議や交渉に臨む。そんな行動が日本社会では評価されやすい実情があります。しかし、この考えが海外でも通用するかと言えば、そうとも言い切れません。そこで今回は、日本と海外のビジネスマナーの違いと、海外で仕事をする際、注意したいポイントについてご説明します。国が違えばビジネスマナーも異なることを念頭に、外国人と渡り合いましょう。

日本人のマナー感覚は世界の非常識?

ニューヨーク

アメリカ・ニューヨークにあるインテリア家具のお店。このオシャレな店舗にひとりの日本人男性が現れました。彼は日本で個人向け家具の輸入事業を展開するビジネスマンです。日本人好みの家具製品はないかとアメリカのインテリアショップを回っている最中でした。

話を聞いた店主は、さっそくこの日本人に自分のお店のソファや洋服ダンスがどれくらい素晴らしいか、ボディランゲージを交えながら熱心にアピールしました。対する日本人は、店主の言葉に真剣に耳を傾け、「素晴らしい」「それは大変魅力的だ」と英語で返します。店主は日本人の感触が大変良いことから、「これはきっとうちと契約してくれるだろう」と手応えを掴み、名刺交換して日本人を送り出しました。

その後、日本人ビジネスマンから連絡があるかと思いきや、まったく音沙汰なし。不審に思った店主は、名刺に記載されていた番号に電話をかけました。「あの話はそれからどうなったんだい?」

彼は今取り込み中だと説明したあと、「もし買う場合はこちらから連絡するよ」と言って電話を切ってしまいました。アメリカ人店主は友人にその話をすると、「それが彼ら流のビジネスの断り方だよ」と教わり、そこではじめて最初から買う気がなかったんだな、と気づいたとのことです。

これは、「曖昧に返事してはっきりと断らない」という、典型的な日本人気質を表す話と言えます。これが日本人同士なら、その場で「買う」と言わない時点で、「この話はないな」と分かるものですが、外国人から見ればなぜ買う気がないのに褒め称えるのか、不思議でしょうがないでしょう。

海外出張で気をつけたいこと

グローバル化が進む中で、外資系企業との交流や海外へ事業展開する機会も増えた昨今。私たち日本人は世界を舞台にビジネスをする場合、どんな心構えが必要でしょうか?海外出張で誤解を生まないためにも、外国のビジネス習慣やその考えを理解しておきましょう。

スピーディな決断が求められる

欧米などの海外諸国のビジネス現場では、迅速な決断が求められます。日本の場合、何かを決める時は上司の許可を必要としたり、複雑な手続きを経ていなければ決断できなかったり、海外からずればとても能率が悪い様に映ります。手続きや上司の許可を必要とする場合でも、外国人とのビジネスではなるべくシンプルかつスムーズに判断したいものです。

交渉も会議も、できるだけ本音で

形式や事前の根回しを重視するあまり、日本のビジネスにおける会議は「会議のための会議」と揶揄されがちです。海外では、会議もかちたちではなく、中身を重視することから、活発な議論が取り交わされます。「空気を読む」「自分の意見を言わない」などの日本人気質は当然、通用しません。外国人が参加する会議では、積極的に自分の意見を言ってこそ評価されます。これはシビアなビジネス交渉でも同じです。

名刺はさほど重要ではない

日本のビジネスシーンにおいて、初対面の人と必ずやり取りされる名刺交換。名刺の渡し方や受け取り方にもルールがあり、これを間違えるとビジネスマンとして失格の烙印を押されてもおかしくありません。それほど、日本で名刺というツールは重要視されますが、海外へ行くとそこまで名刺に対するこだわりはありません。外国では、名刺を交換する前に、まず握手からはじまり、会話で打ち解け合ったあと、それぞれの名刺を渡すのが習わしです。名刺をぞんざいに扱われても、海外では決して非礼にあたらないことを覚えておきましょう。

プロセスより、結果が重んじられる

日本では、往々にして結果よりそのプロセスが重要視されます。「結果は残念だけど、今回みんな頑張ったから良しとしよう」とみんなをねぎらうシーンは日本だとよく見られる光景です。しかし、海外、とくにアメリカなどはどんなに頑張っても結果がついてこなければ評価の対象にはならないことに注意して下さい。

おかしくもないのに笑わない

日本では、何かに失敗したり、ミスをしたりした場合でも、自然と笑みをこぼす人がいます。日本にいれば違和感を覚えませんが、外国人からすれば「ミスをして何が面白いんだ」と不快感を与えてしまうことも。愛想笑いという文化は海外にないこともしっかり覚えておきましょう。

外国の文化や価値観を理解しよう

日本人同士であれば理解できるビジネスマナーも、海外へ行くと通用せず、誤解を生んでトラブルに発展する例も少なくありません。日本人特有の美徳や価値観は、国内のみ共有できることを肝に銘じて海外出張に臨みて下さい。