街を歩いていると、公衆電話を見かけることがあるでしょう。携帯電話など各種の通信手段の普及にともない需要は低くなったといわれますが、利用料金を支払えば誰でも使える電話機として、全国各地に残されています。採算性に関係なく、設置され続けるだろうという声も少なくありません。そこで今回は、公衆電話の歴史や現在の設置数を紹介しつつ、残される理由や利用価値についてご説明します。
公衆電話の歴史
公衆電話の発祥はヨーロッパで、時代は19世紀までさかのぼります。その後、北米・アジアでも設置されました。20世紀半ばには世界中に広がるものの、21世紀になると減少へ転じるという移り変わりをたどりました。
公衆電話設置の目的は、一般民衆にも利用してもらうためです。電話事業が開始された当初、電話機は非常に高価でした。電話したいと思っても、入手できない人が少なからず存在したのです。そのニーズに応えるため、公衆電話が設置される様になりました。
日本では、1900(明治33)年9月11日に、初めて公衆電話が民衆の前に登場しました。場所は、新橋駅と上野駅の駅前です。当初は「自動電話」と呼ばれていましたが、実際には交換手に依頼すると接続してもらえるというシステムでした。
現在はどれくらい設置されている?
行政機関などの発表によれば、かつて全国には90万台以上の公衆電話が設置されていました。しかし、2013(平成25)年末には20万台を切り、その後も減少傾向が続いています。
設置数が減少を続ける大きな理由は、利用率の低下です。年齢層を問わず携帯電話を所有する人が増えたため、多くの場合、外出中に連絡が必要になっても電話機を探す必要はなくなりました。通信環境も整備されて、メールなどのさまざまな通信手段が発達して便利になり、電話による通話自体が減少しているといわれています。
たくさんの人が往来する駅の構内や大通りだけでなく、市役所などの公共施設でもあまり利用されなくなったことから、公衆電話を設置する動きも鈍くなっていったのです。
姿がなくならない理由とは?
設置台数は少なくても公衆電話がなくならない主な理由は、ユニバーサルサービスの一環として法律によって設置が義務付けられているということが主な理由です。収入や社会的地位、地域などにとらわれず、誰でも等しくサービスを享受できるよう定められているのです。
公衆電話の場合、特に災害時に効果を発揮します。地震などに見舞われた時は、少しでも早く身内の安否を確認したいと思うでしょう。大勢の人が一斉に携帯電話を使う事態になれば、電話回線は混雑します。一般回線は通信システムをダウンさせないため、通信量が一定レベルを超えると接続が制限され、電話はつながりにくくなります。いわゆる輻輳(ふくそう)と呼ばれる現象です。
しかし公衆電話は、通話制限を受けません。行政機関などは非常時に機能を停止させないため、電話の種類によって発信が優先扱いされる「災害時優先電話」の指定制度を設けています。公衆電話も、公共サービスの側面が強く、この「優先電話」のひとつに含まれているのです。
固定電話という点でも、災害時にメリットがあります。個別に電話線がつながっており、そこから電力も供給されているからです。この線が生きていれば、停電時にも使用可能です。災害時に限らず緊急連絡が必要な時、スマートフォンのバッテリー残量がなくなってしまうなどの事態に見舞われても、公衆電話が設置されていれば連絡手段がなくなる心配はありません。
「電気通信事業法」には、社会生活の安全性を考慮して、一定の範囲内に設置しなければならない旨が規定されています。大規模災害の備えとして公衆電話の必要性を訴える声も根強く存在しており、しばらくは公衆電話が姿を消すことはなさそうです。
公衆電話はどうやって維持されている?
普段はあまり利用されない公衆電話であっても、その管理や設備更新などには当然ながらお金がかかりますし、通話料やテレホンカードの売り上げだけでは到底まかなうことはできません。では、そのお金はどこから捻出されているのでしょうか?その答えは「ユニバーサルサービス料」です。
携帯電話やスマートフォンの請求内容をじっくりながめたことはありますか?ここに「ユニバーサルサービス料」として、毎月数円程度の徴収がされているはずです。このユニバーサルサービス料によって維持されています。
公衆電話を含めた通信サービスを維持するために、電気通信事業者などから1番号あたり数円を国が徴収、公衆電話を設置しているNTT東日本、NTT西日本へ交付するという形で実現しています。私たちが支払う数円が、いざという時、必要とする人のために役立っています。
公衆電話の使い方
- 受話器を上げる
- 硬貨、またはテレホンカードを入れる
- 相手先電話番号をプッシュ
- プッシュが終われば通話が開始(通話開始ボタンなどはありません)
- 必要に応じて硬貨、またはテレホンカードを追加
- 通話終了時に受話器を戻し、おつりやテレホンカードを受け取る
非常時に携帯電話・スマートフォンが使えなくても慌てないために、あらかじめ公衆電話の設置場所や使い方を確認しておきましょう。かつては防犯上の理由などから、設置場所は非公開でした。しかし公衆電話の役割が見直される動きに応じて、現在は情報が公開されています。駅前や人の集まる施設などで見られますが、自宅や職場の近くにどれくらい設置されているか、パソコンで検索あるいは実際に歩いて探してみても良いかもしれません。
公衆電話の料金
通常、公衆電話を利用するためにはお金が必要です。料金は10円単位のため、少なくとも10円玉を1枚用意しなければいけません。使えるのは10円玉と100円玉で、電話機の上面あるいは正面に、自動販売機や切符の券売機と同じく硬貨の投入口があります。そこに小銭を入れて番号をダイヤルしますが、その前に受話器を持ち上げておかないと硬貨が受け付けてもらえません。
10円で通話できる時間は、通話区間の距離と利用する時間帯にしたがって秒数が決められています。制限時間が近づくと「ブー」というアラーム音が受話器から0.5秒間ほど鳴って通知してくれますが、そこからすぐに料金を追加しないと、自動的に回線が切られます。10円1枚の利用時間は長くても1分前後であり、相手が携帯電話の場合は30秒も通話できません。長く通話する事態に備えて、普段から数枚の小銭あるいはテレホンカードを持参しておくと便利かもしれません。
なお、100円硬貨ではおつりが出ない機種もあるため、説明書きなどを注意深く確認したり、長時間話すだろうという時のみ使用するなどの配慮が必要です。その他、停電時にはテレホンカードが使えなくなる機種があるため、注意が必要です。
緊急時は料金が不要
災害時や「110番」など緊急通報の際には無料で利用できます。種類によって操作は異なりますが、電話機下部にある赤いボタンを押してダイヤルするか、あるいはそのままダイヤルするだけでつながります。それ以外にも、とりあえず硬貨を1枚入れるよう指示されていて、通話終了時に返却されるパターンもあります。
身近に公衆電話があれば、万一の事態に見舞われても連絡手段は失われません。家族や社員とともに、設置場所と使用方法について情報を共有しておくことをおすすめします。